STORY

まな板になるお皿は
どのように生まれたか

大阪の町工場・河辺商会と、東京のデザイン事務所TENT。
その出会いからCHOPLATEが生まれるまでの開発ストーリー。

2021年3月末ごろ。ある新製品が、SNSでひっそりと公開されました。

その名も CHOPLATE(チョップレート)

公開直後から大きな話題となり、1日で1000以上の予約が殺到。一時は予約受付を休止するほどの事態になりました。

フルーツやパン、おつまみなどをちょっと切りたい。食卓で、子どもが食べやすいサイズに切り分けたい。そんな時に最適な「まな板になるお皿」を作りました。#CHOPLATE

今回は、この製品の開発背景をお話していきます。

どうスタートを切ったらいいのか

TENT アオキ(写真左)

こんにちは、今日はCHOPLATEのメーカーである河辺商会の社長 福田さんと、プロセスを振り返っていきたいと思います。

河辺商会 福田さん(写真中央)

こんにちは、よろしくお願いします。

TENT ハルタ(写真右)

よろしくお願いします。

アオキ

もともとは、どのように始まったんでしたっけ。

福田

うちはずっとBtoB(メーカーなどの注文を受けて、部品を製造し納品する形)で樹脂の成型工場をやってきたんですけど。

2年前くらいやったかな、会社のみんなの前で「これからは自社商品をやっていきたいね」って話をしたんです。

アオキ

それは、社長として、社員さんへ発信したということですか?

福田

そうですね。ちょうど若手社員で「自社商品やりたい」て言うてた子もいたんで、三人くらいで集まって何を作ろうかって考えてみたりもしたんですね。

TENTさんへ相談する2、3ヶ月前やったと思います。

ハルタ

そうだったんですね。

福田

でも自分たちで話してても、どうスタートを切ったらいいのかがわからなくて。ちょうどそのときに「大阪製ブランド」のホームページを見かけて。

製造メーカーさんの話がいろいろ出てるじゃないですか。そこから藤田金属さんとTENTさんのフライパンジュウとそのストーリーに辿り着いて。

福田

「ああ、これがやりたかったんやな」って。

アオキ

ふむふむ。

福田

実際に他のデザイナーさんにも聞いてみたんですけど、Webデザインとかパッケージデザインとかはできても、商品をイチから企画するデザイナーさんは全然見当たらなくって。

思い切ってTENTさんへメールしてみたんです。

アオキ

そうでした。それで僕たちが大阪出張の際に立ち寄って、工場見学させていただいて。

福田

そう、来ていただいたんですけど、あの当時、自分らが何をしたいかってことが、自分たちにも何にもわかってなかったんです。

答えがない中で何を作るべきか

アオキ

その2週間後くらいでしたっけ。TENTが沢山のアイデアを提案しましたね。ノンジャンルでいきなり提案させていただいた。当時はどんな印象を受けましたか?

福田

これまでウチは家電の部品なんかを多く請け負ってきた工場やったんで、雑貨と家電で言うたら、家電をやりたいなあっていうイメージがあったんですね。

でも提案されたものの多くは家電というよりは雑貨感があるものだったんで。ちょっと違うかなあと思いましたね。

アオキ

なるほど、たしかにその時はすごく微妙なリアクションだった気がします。

福田

今になって思い返せば、どの案もウチの工場内だけで製造できる商品を提案してくれてたんやなって思います。家電だと他の人と組まないとできへんからね。

当時提案したスケッチのごく一部

ハルタ

最初は「VRゴーグルなんかを開発したい」とおっしゃってましたもんね。でもそういうものだと、河辺商会さんで外装は作れても、中身を作ることができないから。

福田

そうなんですよね。でも最初納得してなくて「もう一回考え直して欲しい」ってお伝えしたんですけど。

アオキ

そうですね、2回目の提案もさせていただいた上で「これが自分たちのできるベストです」と。

2回目提案資料のごく一部

福田

それを聞いて「なるほどな」と。自分たちにも答えがなかったんで迷ってしまったんですよね、うん。

アオキ

それから案を絞り込んだわけですけど、どう決めたんでしたっけ。

福田

まずは基本的には「ウチの工場でできるもの」というシンプルな考えで絞り込みましたね。例えば大型なものは自社で作れないからやめておこう、とか。

ハルタ

そうでしたね。やらない判断というよりは、自社ですぐできるものから優先的に進めていこうというイメージでした。

アオキ

それで、この案が選ばれていたわけですけど。

ハルタ

この時は四角かったんですね。

アオキ

実はこの四角いスケッチの段階では正直、僕自身も「何か良さそうな気がするけど、これでいいのだろうか」っていう迷いがあったんです。

当時この案を見た河辺商会の若手社員さんが「これ、刺身切って食べる時とかに皿にうつさなくていいのが良いですね」って個人的な意見をポっとコメントしてて。

福田

そんなことありましたっけ。

アオキ

言った本人も、もしかすると覚えてないかもしれないくらい一瞬のコメントだったんですけど。皿にうつさなくて良いという部分に、僕としてはハッとしたんです。

そこを起点に考えた結果、よりお皿らしくしたスケッチを描いて「これはいける、自分も欲しい!」と確信することができました。

2回目提案資料のごく一部

腹を括る覚悟

福田

案としては決まったんですけど、自分らのほうでは、どこに河辺商会らしさを表現したら良いかなあっていうのがありました。

アオキ

技術的な部分についてですか?

福田

そうそう。例えばウチは樹脂の成型メーカーだから、リサイクル材料であったり、生分解性の材料を使うなど工夫できないかなと。

アオキ

たしかに材料の検討には、かなり多くの時間が使われましたよね。

福田

6ヶ月とか8ヶ月とか、ずっと材料の検討してました。サンプルを作ってはナイフで切れ込み入れてみたり。成型しやすさはどうか検証したり。

ところが金型を作ってみないとわからないことがあまりにも多くて材料を決めることがなかなかできなくて。開発が停滞してしまった。

アオキ

当時はクラウドファンディングで資金を集めてから金型を作ろうって話してましたもんね。

でもクラウドファンディングするにしても材料は決定しておきたい。

ところが金型を作ってみないと、本当にはどの材料がベストかが見えてこない。堂々巡りでした。

福田

そうそう、歯痒かったんですよ本当に。「やる」って言ってんのに、どうして進まへんのやろって。

悩んだ結果、僕が「金型の費用は出す」って決めてしまえば、いろんなことが進むんやって気付きました。

あそこで腹を括りましたね。

アオキ

どうなるか分からないけど、金型を作ろう、と。

福田

そうです。結局、初期の提案いただいてからこの決断までで、丸1年かかってしまいました。

想定外のトラブルをプラスに

アオキ

金型の製造が始まってからは一気にスピードが上がった気がします。ただ、材料とその成型については、やはり色々ありましたね。

福田

実際の金型を使って、様々な材料を試しました。リサイクル材、生分解性材、アクリル、ABS、ポリカ……

アオキ

ナイフ傷が簡単にはつかない材料ということで、当初からSPS材は第一候補に上がっていたんですよね。

ところが、SPS材料で作ると思わぬトラブルが発生した。

実は当初のデザインイメージとしては、黒くてマットな、シンプルなお皿をイメージしていたんですね。

初期の試作では完全にマットな黒をイメージしていた

アオキ

なので、SPS材の最初の成型サンプルをみた時は、正直ゾッとしました。

ハルタ

樹脂と配合しているガラス繊維の流れが、奇妙な模様のようになって表面に現れてしまった。

アオキ

SPS材は、ずっしり重くて叩くとカンカン音がするほど堅くて。「この奇妙な模様さえなければ最高なのになあ」と思ってました。

ずーっと悩んでいても仕方ないので、とりあえず家で使ってみることにしたんです。

アオキ

実際に食べ物を置いてみたら、あんなに嫌だった模様が、むしろ食べ物を美味しく感じられるような、味のあるテクスチャーに見えてきたんですよ。

ハルタ

ある意味「焼き物のお皿にあるような質感」というか。

アオキ

ですね。僕は「輪切りの大根のような繊維感」って思ってましたけど。

いずれにしても食べ物を置く皿として魅力的に見えてきたんですよね。

福田

「食べ物を置いてみるとよく見える」っていうのは、眼から鱗と言いますか、驚きでしたよ。

私らの工場では、ガラス繊維を配合したときに生じるこの模様は、普通はダメな物として捉えてました。大手メーカーさんの部品では、この模様をなくすために、わざわざ表面に塗装していたりもしますから。

アオキ

とはいえ当時のサンプルは今みたいに綺麗ではなかったので「なんとかなりませんか」ってお願いしました。

福田

この模様を活かす形で整えていくのは、なかなか難しかったですね。

アオキ

そのあたり、言える範囲での工夫などはありますか?

福田

普通の樹脂は100度で成型できますから、お湯で金型を温めれば成型できます。

でも今回のSPS材は150度じゃないと成型できませんから、金型に追加工してヒータを入れ込んだりして、温度管理がけっこう大変ですね。

成型後の歪みもかなり生じたんで、治具(ジグ)の工夫もしました。

アオキ

どこの工場でも簡単に作れるというものではないんですね。

福田

そうやと思います。できるかできないかというより、こんなめんどくさい製造工程をやる工場は、そんなに多くないと思います。

アオキ

ちなみにさきほど「眼から鱗」とおっしゃってましたけど、この模様はその後、工場の皆さんの中で「活かすべき良いもの」という認識に変わりましたか?

福田

私は、サンプルの段階で家で使ってたんで、なんとなくイメージできてました。水洗いして使ったら「ええやん」って。

でもまだ実際に使ってない社員もいるんで「これでええんかな」って思ってる人はいると思います。

せっかくそれまで苦労したシボ(表面の微細な凹凸)なんかもね。

アオキ

そうですね、SPS材に決まる以前の、まだ金型を作る段階で「樹脂でありながら暮らしの中で使いたくなる質感とは何か」を検討するために、ものすごく細かくシボ調整のやりとりをしてました。

ハルタ

でも最終的にはこの模様が入ったことで、シボがあんまり見えなくなったと言うか。

アオキ

そうなんですよね。でも見た目としては感じにくくなったんですけど、機能のためのシボという意味で、今でもベストだと思いますよ!

手触りと言い、切りやすさや洗いやすさと言い、このシボしかないなと。

アオキ

実は最初にいただいた10枚くらいのサンプルを、知り合いに渡して感想なんかも聞いてたんですけど

「まな板として使える部分も良いけど、電子レンジや食洗機に対応してて、何より皿として格好良い!」と言ってもらえることが多くて。

結果的には、この素材ならではの特徴が一番出せたんじゃないかなって思えました。

早く言いたくてしゃあない

アオキ

ちなみに、これまでの河辺商会さんでは、自分たちでパッケージまで担当することもなかなか無かったと思うんですけど、その辺りはどうですか。

福田

レコードやCDのパッケージ、チョコレートのパッケージ、人によって受け取り方は違うんですけど。やっぱりパッケージ案を見た時は「さすがやな」と思いましたね。

福田

実は商品名に関しても、提案された瞬間から「なるほど!」って腑に落ちて。当時は社内のみんなにもこのプロジェクトのことを言うてなかったんですけど、「早くこれを世に出してこの名前を言いたいな」ってなってたんです。

最近ではCHOPLATE(チョップレート)って名前が社内でも当たり前のように使われてるんで、ほんとよかったなと思ってます。

ハルタ

発売したばかりではありますけど、公開されてから、社内の雰囲気とかは変わりましたか?

福田

変わりましたよー。これまでは社員のほうから私に声かけてくれるって少なくって。ほんま寂しいんですけど。

ハルタ

「偉い人がきたぞ!」って感じですかね。

福田

「苦手な人きたわ」って感じやと思うんですけどね。

でも今は社員の方から僕にCHOPLATEの話題を振ってくれて。「よかったですね」と言ってくれて。

福田

みんなの中でも「自分たちの商品なんや」って意識してくれるようになったんかなって。人ごとじゃないというか。

アオキ

社内でSNSなんかの評判をみてる方はいますか?

福田

ほとんどの人がSNSやってないんで知らへんと思います。

ハルタ

それはもったいない!すごく良い反響が見られるのに。

アオキ

良い感想をプリントアウトして社内掲示しちゃいたいくらいですね。

福田

パートさんが関わってるので彼女らがテンション上がると良いなと思いますね。実は先行予約分の製造が落ち着いたら、働いてくれているみんなにCHOPLATEを1枚ずつプレゼントしようとも考えてるんです。

アオキ

それは素敵ですね!

ちなみに、CHOPLATEで河辺さんはBtoC(一般の方に向けて商品をつくること)を始めたわけですけど

「これから同じように自社商品を始めたいよ」って方がいたとしたら、伝えたいことはありますか?

影響はこれから

福田

うーん、本当は「社員のモチベーション、彼らのやる気を引き出したい」っていうのが自社商品を始めた目的やったんですけど。

現時点ではそういった成果があったのかは、まだわからないですね。

アオキ

僕たちがこれまで様々なメーカーさんと仕事をしてきた経験から言うと、元々の社員さんのモチベーションがすぐに大きく変わったってことはなかった気がします。

ただ、一番影響があったのは、むしろ求人のほうですね。

福田

そうなんですか。

ハルタ

ですね。これから来る人たちには影響があると思いますよ。

福田

たしかに「今の自分の仕事プラスアルファで」ってなると重荷になりますもんね。

次に入ってくる人は「こういったことがしたいんだ」ってイメージがあって入るわけだから、変わってくるかもしれないですね。

半信半疑を短くする

福田

前にアオキさんが記事にされてたと思うんですけど、やはり自社商品っていうのは誰にも依頼されていないわけだから。

まず最初に投資があって、やるかやらんかを自分で決める。そこがBtoBとBtoCとでは、大きく違うなあと思いますね。

福田

自分らの中で「これは世に出したい」とか「やりたい」と思えるものだったら良いですね。半信半疑でやってるのは不幸やなと思いますね。

アオキ

今回は先行予約という形でスタートして本当によかったですね。予約が数千枚入った上で量産ができたので、半信半疑の期間を短くすることができたから。

ハルタ

先行予約してくれた方には、そういった面でも本当に感謝ですね。

アオキ

沢山のご予約、本当にありがとうございました!

本当に欲しい方へ届くように

福田

今回、最初に用意していた先行予約枠って、100枚でしたよね。

アオキ

そうだったと思います。

福田

100枚が1時間で無くなって、夕方に500枚にしましょうってなって、翌朝には1000枚いったんですよね。

アオキ

そうですね。1000枚予約が入っても全く勢いが止まらなかったので、さすがに怖くなって、1500枚あたりで、一度は受付を止めました。それで福田さんに生産体制のことなど相談して。

福田

そうですね「うちのほうでは、まだまだ大丈夫ですよ」ってお伝えしました。

アオキ

実は僕の方では、転売されてしまうのを回避したかったんです。買えないレアな商品みたいになっちゃうと、転売用に買い占められたりして、本当に欲しい方に届かなくなってしまう。

だから今回は、ものすごい潤沢に予約枠を用意させていただきました。

「誰でも購入できるから転売しても無駄だよ!」ってメッセージも打ち出したくて。

悪役にされがちなプラスチックのこと

アオキ

CHOPLATEはガラス繊維配合のSPS材という変わった素材ではあるものの、いわゆる「プラスチック製品」なんですよね。

プラスチックについて風当たりが強い今日この頃ですが、河辺商会さんとしては、いかがですか?

福田

うちは使い捨て商品を作っている工場ではないので、それほど風当たりが強いわけではないのですが、やっぱり採用の面とかで影響はありますね。

環境に対する取り組みを、しっかり説明しないと。

アオキ

何も言わないと、プラスチックの製造が、まるで悪いことみたいにされちゃうんですね。

福田

そういう部分もあると思います。ウチはエコ素材を活用したり、廃材の再利用なんかも積極的に取り組んでまして。

今回のCHOPLATEも成型時に出るランナーとか、普通なら廃棄になってしまう部分までリサイクルできないかなって検討も、いま進めてます。

アオキ

僕は、素材っていうのは使い方次第だと思っていて。

プラスチックを安いから使うんじゃなく、高機能な素材という元々の良さを活かして、長く愛用できるものを作る。

CHOPLATEは実際に使ってみて、まな板になったり電子レンジや食洗機にも対応していたり、落としても割れなかったりして、やっぱり他の素材にはできない、この素材の良さを活かすことができたと思うんです。

そういうプラスチックとの向き合い方もあるなと思うんです。

福田

樹脂を使ったことで機能性は良かった。でもそれだけじゃなくてTENTさんのデザイン性があるから実現できた事なのかもしれないですね。

開かれた工場へ

福田

藤田金属さんの工場もそうですけど、最近は「オープンファクトリー」言う取り組みも増えてきて。いつでも予約なしで工場見学できるよっていうものなんですけど。

うちもいつか、あれに近いことできたらなって夢があります。見学していただいて、ちょっとワークショプみたいなものも体験してもらって、できればCHOPLATEを買えるコーナーなんかもあったりして。

アオキ

それは良いですね!

僕は学生の頃は工場って言うと「全自動でガチャンガチャンできていく」ってイメージがあったんです。

でもプロになってから実際に見てみると、人が手で製造してる工程が数多くあって。パッケージングなんかも1つ1つ手作業でやっている。

そういう現場を見たら「大量生産」の印象がすごく変わると思います。

ハルタ

伝統工芸の見学なんかはあっても、こういった暮らしに近い工業製品の見学ってなかなかないですもんね。オープンファクトリー、すごく楽しみです。

福田

とはいえ、まずはCHOPLATEを沢山の方へお届けして。この先もこんな製品を作っていけるように頑張りますね。

アオキ

今日はありがとうございました。

福田 / ハルタ

ありがとうございました!

河辺商会さんにとって初めての自社商品であるCHOPLATE。

暮らしの中で、ガシガシお使いいただけると嬉しいです。

また、日本に数多くある中小企業にとって、今回のエピソードが何かのヒントになったり、励みにしていただける部分があると、とても嬉しく思います。

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