洗った後に乾かすために、ホコリが入らないようするために。実は多くのお家の棚ではコップがひっくり返して置かれる事が当たり前になっています。しかし、そんな状況にまで気を使ったコップは、あまり存在していませんでした。Milk cup は、その形状とコルクの組み合わせによって、棚の中でもかわいらしく佇みます。さらに、使用時にはコルクがコースターとして機能するため、大切な机も傷つけません。
※真夏に冷たい飲み物を入れて使用する場合には、多少の水滴が底面へ垂れる恐れがあります。
九州の佐賀県嬉野市。ここはお茶所として、また日本有数の温泉地としても知られています。そんな自然に恵まれた地域で作られている陶磁器が、肥前吉田焼き。その開窯は400年以上も遡り、磁器の産地としては最も古い地域の一つです。その歴史ある窯元の七代目である224porcelain代表の辻さんとTENTとが出会うことで、Milk cupの生産は実現されました。長い歴史の中で培われた確かな技術によって、ただユニークなだけではない、使う程に納得出来る高い品質を実現しています。
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陶磁器はあまりにも清潔な白さを持つため、遠くから一見すると機械による大量生産に思われるかもしれません。しかし、手に取っていただければその違いに気付きます。内側も外側も、決して幾何学的ではない絶妙な優しさをもったカーブでできています。このカーブは、削り込みという手法によって、肥前吉田焼きの職人さんの手によって一点一点丁寧に形作られています。内側を削る職人さんは年齢80歳、この道65年の大ベテランです。ぜひ実物を触って、その優しいカーブをご確認いただきたいです。
Milk cupの製造元を尋ねて
九州の佐賀県、嬉野市。お茶畑と温泉に恵まれたこの土地にMilk cupを製造している224porcelainさんがあります。2013年3月TENTの2人はMilk cupの製造工程の取材に訪れました。澄んだ空気と小鳥のさえずりに包まれた工房を224porcelain代表辻さんの案内で巡って行きます。
400年の歴史を持つ肥前吉田焼の七代目
辻さん「そもそも始まりは江戸時代に遡ります。この辺りは鍋島藩だったのですが、藩のお殿様が朝鮮出兵へ行った時に、あちらの陶工を連れて帰ってきたんです。そして関所を作って、腕の良い職人をそこに集めて出られなくして、今で言う公務員のような形で採算度外視の献上品やおもてなし品などの高級品を作らせたんですね。その中心地が内山(うちやま)と呼ばれて、その外側に普段使いの雑器を作る外山(そとやま)ができていった。そしてここ、嬉野市嬉野町の吉田は大外山(おおそとやま)に位置するんです。大外山である吉田には問屋さんがなかったので、内山の波佐見や有田にある問屋さんを経由して全国に販売された。だから吉田で作った磁器は有田焼のシールを貼って売られたんです。その後、有田焼もかつてほど売れなくなると、いわゆる下請けのような立場にいた吉田は、腕はあっても仕事がない状態に陥ってしまった。僕はその吉田焼の窯の七代目にあたるんですが、この状況をなんとかしたいと思い、一族の会社である「辻与製陶所」とは別に個人で立ち上げたのが 224porcelainというブランドです。」
お金では動かない嬉野の職人気質
辻さん「嬉野には、美味しいお茶、気持ちの良い温泉があり、吉田焼がある。こんなにも誇れるものがあるのだから胸を張って全国に、全世界に嬉野の力をアピールすべきだと僕は思ってます。ここには、腕が良く、人の良い職人さんが沢山いるんです。だから、単純な価格競争に巻き込まれるだけというのは違うと思う。安いからではなく、好きだから買ってもらえるようなものを、自分たちで考えて作っていきたいと思ってます。」
そんな腕の良い職人さんの1人、田崎さんの工房でMilk cupの製造工程の一部を見学させて頂く事になりました。
「田崎さんはすごく腕が良いんだけどお酒が大好きで、いつもお酒飲んでるから納期とか忘れちゃうことがあるんですよね。さすがに80歳ですし(笑)。でも他に同じ事が出来る人はいないんです。東京なんかだと、仕事を大急ぎで依頼する時って”特急料金でお願いします”とかあるじゃないですか。ここにはそういうのはないんです。お金の事を言っても動いてくれません。でも、田崎さんには弱点があってね。本当に急ぐ時はちょっとしたお酒と、大好きな豚足を献上するんです。そうすると上機嫌になって、すごい勢いで良いものをあげてくれるんですよね」
人の手で作られる暖かみ
今回の取材へ伺う前には、磁器とはいえ大量に生産するものなのだから、きっと大量の機械が自動的に生産を繰り返しているのだろう。というイメージを漠然と抱いていました。しかし、現地を訪れてその印象はがらりと変わることになりました。少なくとも、ここ嬉野の、このMilk cupは1人1人の魅力的な職人さん達が、やりとりを繰り返し、自らの手を使って制作しています。単なる効率化だけではない、人と人のコミュニケーションがさかんな暖かい場所がそこにはありました。朝の牛乳を美味しく、もっと楽しく飲みたい。Milk cupは、そんな気持ちを満たすためのコップです。ユニークなアイデアとデザインだけでは到達する事のできない、楽しい佇まいはこんな製造工程だからこそ実現できました。辻さん、 田崎さん、そして私たちTENT。顔の見える作り手たちが丁寧に作り上げたこのMilk cup。ぜひ皆さまの食卓でも楽しくお使いいただけると嬉しいです。
(2013年4月)
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