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服や靴、帽子、鞄、財布……。毎日使うものって、どこか柔らかくて、触るだけで安心できるものが多い気がする。

もちろんなにごとにも例外はある。たとえば家の鍵は、固いし、とんがってるしで、なんだか落ち着かない気分になってしまう。

だから僕はこのカバーを使うことにしたんだ。だって、大事なものは、柔らかいほうがいいからね。


渡辺平日(以降 渡辺 と表記)
今回は鍵全体をスポッと覆えるカバー、KeyKeeperについて語っていただきます。これも前回のBOOK on BOOKと同様、TENT結成前から、青木さんが構想を練っていたプロダクトですね。

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事前のヒアリングでは、KeyKeeperにまつわるエピソードがふたつあるとのことでしたが。

TENT青木(以降アオキと表記)
ええ。ひとつはKeyKeeperを思いつくきっかけになった話、もうひとつは、あとから考えて「……そうだったのか」と納得した話です。

渡辺
なるほど。どっちも興味をそそられますが、まずは「きっかけ」のほうからお願いします。





どうしてみんなやらないの?

アオキ
むかし働いていた会社に、めちゃくちゃ変わった同僚がいたんですよ。僕たちは独身寮に住んでいたのですが、彼はかなり過激な人物で、「色が気に食わない」と内装を白く塗っちゃったり、「サイズが合ってなくてイライラする」と備え付けの本棚をノコギリで切っちゃったりしてました。

渡辺
えーと、DIY可の部屋じゃなくてふつうの寮ですよね。すごいなあ。


アオキ
とにかく思想が徹底してて、僕は「変なヤツだなあ」と感じてました。……ここからが本題で、そのころはまだスマホがなくて、折りたたみ携帯の時代だったんですね。

みんな、携帯に好きなストラップを付けてたと思いますが、なぜかその同僚は携帯に鍵をむき出しでくくり付けてて、本体がキズだらけになってたんですよ。


渡辺
鍵を携帯に? いったいなぜですか?


アオキ
僕もそう感じて「なんで?」と聞いたら「これが一番効率がいいじゃん、鍵も失くさないし。どうしてみんなやらないの?」って不思議がってて……。


渡辺
すごい、かなり過激な方だったんですね。


アオキ
はい、彼は同期の間でも有名人でした。


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アオキ

「ボロボロの携帯」を目撃してから3年くらい経って、たしか電車に乗っているときだったかな。「鍵がほかのものを傷つけないよう、カバーを付けてみては
どうか?」と思いつきました。これがKeyKeeperのはじまりですね。


渡辺
いよいよですね。最初から現在の仕様に近い感じだったんでしょうか?


アオキ
いえ、その頃は単純に「風船に鍵が入っている」ようなものをイメージしていました。


渡辺
風船ですか? ……ちょっと想像が難しいのですが、イラストを描いてもらっても大丈夫でしょうか。


アオキ
実はですね、当時のスケッチを律儀に残してあるんですよ。



できるだけ存在感を無くしたかった

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アオキ
この段階では、「風船のような形のカバーに包まれたなにか」というイメージでした。ただ、変わった形状だから試作するのもけっこうしんどくて、しばらく放置してました。

それから1年経った頃ですかねえ。ある日、「2枚の長方形の板で鍵を挟めばいけるのでは?」と思いついて、すぐに厚紙とホッチキスで試作したら「いいじゃん!」という感じで。


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渡辺
なるほど。「2枚の板で鍵を包み込む機構」を着想したのが大きかったんですね。


アオキ

そうですね。あと、これは結果論ですけど、四角にしたことで鍵の形を隠せるようになったことが、自分的には革命でした。


渡辺
ふーむ。どういうところがそうだったのでしょうか?


アオキ
あの、あくまでも個人的な感覚なんですが、僕は鍵がちょっと苦手なんですよ。あのゴチャゴチャした感じの形状がどうしても好きになれなくて……。なので僕としては、鍵っぽく見えなくなったところが画期的でしたね。


渡辺
なにか深いところに潜っていくような感覚があります。もうすこしだけ、詳しく伺っても大丈夫ですか?


アオキ
より正確に表現すると、「できるだけ存在感を無くしたかった」という感じでしょうか。見た目の問題だけじゃなくて、鍵はプライバシーに関わるものじゃないですか。

そういうこともいろいろ考えて、鍵のように見えないように工夫しました。具体的には、カードやタグのように見えるイメージで仕上げています。


渡辺
そうだったんですね。

ちょっと話がそれるかもですが……。僕もKeyKeeperを使っていて、鍵を開けるたびに「能ある鷹は爪を隠すってやつだなあ」って感心しちゃいます。


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渡辺
というのも、ふだんはただの四角い物体なのに、 必要なときにパッと展開して活躍する感じがいいなあと。人間だったらかなり好ましい性格をしてますよね。


アオキ
「ふだんはなんでもないように見える」というのはかなり大事にしているところです。これも長方形のおかげですね。風船型だと、どうがんばっても鍵だと分かってしまいますから。

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青木が使い続けているキーキーパー
手前の青いものは旧タイプ



もし気に入っていたとしても

渡辺
ちなみに、同僚さんはKeyKeeperについてなにか言ってましたか?


アオキ
実は完成したときにプレゼントしたんですよ。「君のためにつくったんだよ」って。特にリアクションはありませんでしたが。


一同



渡辺
そうでしたか。お話を伺ってる感じ、DRAW A LINEとかはすごく気に入ってくれてそうな気がしますが。


アオキ
絶対しっくり来ると思います。でも、もし気に入っていたとしても、たぶんなにも言ってこないでしょうね。そういう人なので……笑


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「ぜんぜん楽しくないな、鍵って」


渡辺

では、もうひとつのエピソードをお聞かせいただけますか?

アオキ
はい。これはもっと昔の話で、小学生時代まで遡るんですけど、僕はマンション暮らしの鍵っ子だったんですよ。自分で鍵を持ち歩いてたんですが、なんかそれがとても寂しくて。

しかも鍵って尖ってて怖いじゃないですか。いつも「ぜんぜん楽しくないな、鍵って」と思ってました。

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発表当時のカラーバリエーション
こちらも旧タイプのため
現在は販売されていない



アオキ

だからKeyKeeperを作るときは、できるだけ鍵をポジティブに感じられるようにと努力しました。触り心地をよくしたり、カラフルにしたりした理由も、そこにある気がします。


渡辺
そうでしたか。うまく言葉にできませんが……。自分の手によって、むかしの自分を救おうとしたのかもしれませんね。


アオキ
ほんと、そうかもですね。鍵っ子だった自分に、「大丈夫だよ」と言ってあげたかったのかなって、あとから思ったりしました。

さっきは「キズだらけの携帯電話」が動機になったと言いましたが、一番のきっかけは幼少期の経験かもしれないです。




人それぞれの鍵事情

ハルタ
すみません。関係ないかもしれないですけど、自分の経験を話させてもらっても大丈夫ですか?


渡辺
はい、もちろんです。


ハルタ
青木さんの話を聞いてて「あれ?」と思ったんですが……僕にとって鍵はすごいポジティブなものなんですよ。


アオキ
ええっ、そうなんですか?


ハルタ
僕は母親がずっと家にいる家庭で育ったので、家の鍵を持ったことがなかったんです。だから憧れみたいなものすら抱いていて、一人暮らしするときに鍵を手にしたときはテンションがあがりました。


アオキ
僕とはぜんぜん違いますね。


ハルタ
話を聞いてて真逆だなと思いました。僕は鍵が増えるのが嬉しいんですよ。なんだろ、自分だけの「場所」や「もの」が増えている感じがして。これはRPGで主人公がレベルアップしたときの感覚に近いかもしれません。


アオキ
たしかにバイクや車のキーを手に入れたときはワクワクしましたね。でも、やっぱり家の鍵って寂しいです。

いまでも僕、事務所に一番乗りするのは嫌なんですよ。誰かが居たほうがうれしいです。あの、ビルの暗い廊下で、鍵をカチャカチャってするのが寂しくて。


ハルタ
僕は鍵を開けるのがちょっと楽しみですけどねえ。一番乗り、好きですよ。


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渡辺
10年も一緒に仕事をしていても、知らないことっていっぱいあるんですね。ちなみにケンケンさんは、鍵についてなにか思い出はありますか?


ケンケン
鍵ですか。うーん……。


アオキ
家にはいつも誰か居た?


ケンケン
いや、居なかったです。うちも共働きだったので。


アオキ
寂しくなかった?


ケンケン
家のすぐ隣におじいちゃんが住んでて、毎日遊びに行ってたので寂しくなかったです。


渡辺
いや、ほんと、鍵事情って人それぞれですね。僕の家も共働きだったのですが、田舎だから鍵をかけるという習慣がなくて。だから鍵に対しては特にネガティブな印象は持ってないです。


アオキ
なるほど。じゃあ鍵はまったく使わないんですか?


渡辺
えっと、旅行に行くときぐらいですねえ。父親が施錠している様子を見て、妙にドキドキしたのを覚えています。


アオキ
おもしろい笑

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繋がっていないようで、ぜんぶ、繋がっている

渡辺
あの、いま、TENTが手掛けたプロダクトを改めてチェックしてたのですが……。ひょっとして、OKAERI ROBOT(オカエリロボット)って、青木さんが主導で進めたプロダクトですか?


アオキ
あっ、はい。そうですけど、どうしてですか?


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渡辺
なんだか、OKAERI ROBOTのコンセプトって、さっきのKeyKeeperの話とリンクしている気がしませんか? どちらも「帰るときに寂しくないように」という気持ちが出発点になってますよね。


一同
……ああ~!

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アオキ
気づかなかった。たぶん繋がってますね。もしかすると、ほかもいろいろ繋がってるかもしれない。


渡辺
点と点が繋がっていく感じがしますね。どんどん掘り下げていきましょう。


ハルタ
「青木亮作」を紐解いていくわけですね。


アオキ
こわい!


一同



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一見、関係のなさそうなものが、深いところで繋がっている。そんなあたりまえのことに改めて気付かされました。……それにしても、回を重ねるごとに、「TENT」を紐解いているようで、なんだかとてもワクワクします。

ところで、イラスト担当のイチハラマコさん曰く、「私の家も鍵をかける習慣がなかったので、鍵っ子の友達の『大事なものを自分が持っている』という感じがうらやましかった」とのこと。うーむ。ほんと、鍵事情って人それぞれだ。

もし家の鍵や、KeyKeeperに関してお喋りしたいことがある方は #TENT10th というタグをつけてツイートしてみてください。TENTさんからなにかリアクションがあるかもしれませんよ。

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2020年10月、テントは10期目を迎えました。

今まで「点々」とやってきましたが、これを機に「線」にしたいなと思い、いくつかの企画を立ち上げることにしました。

メイン企画である、この「10年目の点と線」では、日用品愛好家の渡辺平日さんとともに、これまでに作ってきたアイテムを1つ1つ掘り下げながら10年間を振り返っていきます。

素敵なイラストは、渡辺平日さんとユニットを組んでいるイチハラマコさんによるものです。




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